薬剤師さん向けの抗菌薬関連の参考図書紹介
抗菌薬・感染症の分野では、薬剤師の活躍が期待されています。
近年抗菌薬適正使用の重要性が認識され、抗菌薬適正使用チームが作られたり、抗菌薬適正使用に向けた加算も設定されたりするなど、注目度が高くなっています。
そのため、抗菌薬への理解を深めることは大切です。
勉強しなくてはいけないと思いながら、なかなか難しく取り組むことができないのがこの分野だと思います。
薬学部の授業では個々の薬剤について作用機序などは勉強しますが、感染症をどう治療していくのか、抗菌薬の選択方法などの臨床で役に立つ知識は勉強しません。
病院であっても、薬局であっても様々な場面で抗菌薬は使用されるため、抗菌薬の正しい知識を持っておくことで数多くの患者さんに役立つことができます。
今回は、抗菌薬治療に関わる上で、薬剤師として必要な知識を学ぶ上で参考になる本を厳選して紹介していきたいと思います。
教科書として使える本
レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版
感染症診療全般を網羅したバイブルの改訂第4版です。病原の同定と適切な薬剤選択を基本に、臨床の実践的な知識を学ぶことができます。
トピックとして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、ゾーニング、薬剤耐性菌(AMR)対策、最新の検査法なども収載されています。
一線で活躍するエキスパートの先生方が書かれた臨床知が凝縮された一冊です。
臨床の医師も使用する教科書的な一冊で、抗菌薬治療についてとても深い知識を学ぶことができます。
薬学生・薬剤師レジデントのための感染症学・抗菌薬治療テキスト 第2版
薬学生・薬剤師レジデントのための感染症学・抗菌薬治療テキスト 第2版
臨床感染症の標準的治療と抗菌薬の使い方について解説された好評テキストの改訂版です。
薬学生でもわかるような簡単な解説は変わらずに、初版の発刊から3年の間に新しくなったガイドラインやエビデンスに基づいて内容がアップデートされ、取り上げる疾患・薬剤も増えて、ますます使いやすくなっています。
改訂 薬学教育モデル・コアカリキュラムにも準拠し、大学での講義、実習から臨床現場での実践まで頼れる1冊です。自身の勉強もそうですが、学生指導や後輩指導にも役立つ一冊です。
抗菌薬適正使用生涯教育テキスト(第3版)
Textbook of Continuing Education for Prudent Antimicrobial Use(3rd Edition)
日本化学療法学会から出版されている「抗菌薬適正使用生涯教育テキスト(第3版)」です。
2007年に抗菌化学療法認定医・指導医認定制度が発足した翌2008年に初版が発行され、2013年に改訂がなされていました。
これ以降、複数の抗微生物薬が新規に開発され、臨床の場に導入されていますが、これらの薬剤についての基礎的・臨床的知見が追加されています。
また、長年にわたり臨床現場で使用されている薬剤についても、新たな委員構成のもと内容が改訂され、第3版を刊行されました。抗菌化学療法認定医・指導医認定制度のテキストにもなっており、抗菌化学療法認定薬剤師の試験勉強にも役立つ一冊です。端的にポイントがまとめられ、1冊で基礎から臨床まで勉強できる一冊です。
抗菌化学療法認定薬剤師テキスト ~薬剤師が知っておきたい感染症と抗菌化学療法~
名前の通り、抗菌化学療法認定薬剤師制度の教科書的位置付けで作成された本です。
病院全体の抗菌化学療法を推進していく上で、ときには薬剤師が医師に代わり中心的な役割を担ってもらいたいと願い作られており、単なる抗菌薬の基礎知識だけでなく実地臨床で活躍できるための情報を盛り込まれています。
抗菌化学療法認定薬剤師の認定試験はこの本の内容が考慮されて出題されますが、試験対策のみではなく、これから感染症や抗菌化学療法の勉強を始める若い薬剤師や学生の教材にも大いに活用することができる1冊です。
日常の業務で使えるガイドライン
JAID/JSC感染症治療ガイド2019
日本感染症学会と日本化学療法学会との共同編集で、2012年に初版が、2014年にその改訂版が公表され、ようやく第3版が発刊されました。
各領域の感染症では成人と小児とに分け、empiric therapy、definitive therapyにおける推奨治療を記されています。
肝胆道感染症を除き、ほとんどの感染症が網羅されています。実際に臨床で感染症治療に関わる際に、道標になる一冊です。
MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版2019
Practical guidelines for the management and treatment of infections caused by MRSA, 2019 Edition
2013年の第一版以降、2回の改訂版が公表され、今回の改訂もMRSA感染症を取り巻く状況の変化に対応して作成されています。
特に大きな変化としては、2018年に新しくテジゾリドが発売され、国内で使用可能な抗MRSA薬が6薬剤となりました。
これにより、さらに個々の薬剤の特徴を踏まえて薬剤選択を行う必要性が生じています。
薬剤師としてMRSA感染症治療というとTDMというイメージが強いかと思いますが、TDMからさらに一歩踏み込んで抗菌薬の選択などにも介入していくことができます。
本書はその際の足掛かりになる1冊です。
Clostridioides(Clostridium)difficile感染症診療ガイドライン
C. difficileが医療関連感染の原因微生物として重要であることは言うまでもなく、2017年12月に初めてのCDI再発抑制薬が上市され、2018年10月には新しいCDI治療薬が上市されたこともあり、感染症・化学療法の領域では注目されています。
欧米でも既にCDI診療ガイドラインが発表されており、日本における診療ガイドラインの作成が望まれてきました。
そんな状況で作成された待望のガイドラインです。
自身の担当している患者さんに下痢が起きた時にこれC. difficileによる下痢?と考えることができるだけで、薬剤師として患者さんに貢献できることが多くあります。
この本を使用して一度知識を深めておくと良いでしょう。
抗菌薬TDMガイドライン改訂版
Revised guidelines for therapeutic drug monitoring of antimicrobials
薬剤師にとっては言わずと知れたTDMガイドラインです。
TDMで関わることが多いバンコマイシンだけではなく、テイコプラニン・アミカシン・ゲンタマイシン・トブラマイシン・アルベカシン・ボリコナゾールに推奨が書かれています。
またエビデンスについてもわかりやすく整理されて書かれており、元文献も含めた勉強にも役立ちます。
インターネットではガイドラインの概略版が見られますが、書籍だとガイドラインの推奨に至ったエビデンスまで見ることができますので、感染症をしっかりと理解したい薬剤師にはお勧めできる1冊です。
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン
Japanese Clinical Practice Guidelines for antimicrobial prophylaxis in surgery
日本化学療法学会と日本外科感染症学会のconsensus statementです。欧米のガイドラインを踏襲したものでなく、日本で活用できる実際的な勧告が行われています。
エビデンスを重視しながらも、日本での実際の予防抗菌使用状況をある程度考慮して勧告されています。抗菌薬の使用量が問題になる中で、周術期の適切な抗菌薬使用はとても大切な問題で、薬剤師として自施設の状況だけではなく、国内全体の流れを理解することが大切です。
本書は、その基本を勉強できる1冊です。
参考になる本
感染症プラチナマニュアル 2020
感染症診療に必要かつ不可欠な内容がハンディサイズに収載され、白衣に入れて持ち歩きたい1冊です。必要な情報のみに絞ってまとめられ、臨床における迷いが払拭されます。
医師に抗菌薬について相談された際に、本書を見てすぐに答えることができるそんな1冊となっています。
絶対わかる抗菌薬はじめの一歩 一目でわかる重要ポイントと演習問題で使い方の基本を
抗菌薬について特化している1冊です。ポイントが一目でわかるからみるみる理解が深まり、演習問題で応用力も鍛えることができます。
妊婦への投与など,臨床で役立つ付録表もついていて、普段の勉強だけでなく、臨床現場ですぐに使うこともできます。
抗菌薬の考え方,使い方 ver.4 魔弾よ、ふたたび…
岩田健太郎先生による従来の「抗菌薬の使い方」の解説はもちろんのこと、「使える抗菌薬」「使わなくてもよい抗菌薬」まで詳しくレビューされています。
岩田先生のお考えを学ぶことができる1冊です。授業を受けている感覚で読み進めることもでき、面白い一冊です。
日本語版 サンフォード感染症治療ガイド2020
1969年の刊行以来,全世界の臨床家に活用されている「感染症診療のバイブル」 2020年度版の日本語版です。世界の感染症の状況がわかる、まさに感染症診療のグローバルスタンダードな1冊です。
腎機能低下時の抗菌薬投与量や治療期間、感受性など欲しい情報が凝縮されています。
注意点としては日本の抗菌薬投与量と違うこともあり、その点は注意が必要です。
薬剤師の臨床センスを磨くトレーニングブック 薬トレ 感染・がん
薬剤師の臨床センスを磨くトレーニングブック 薬トレ 感染・がん
臨床的知識を身につけるには症例での勉強も大切ですが、感染症の症例は突然くるためなかなか定期的には勉強できません。
本書は感染症の症例を50症例含められており、模擬症例で感染症治療の知識を深めることができます。
臨床現場でよく遭遇するものから対応に悩むものまで、さまざまなシチュエーション・難易度の問題が掲載されています。
現場の薬剤師の自己研鑽・スキルアップに役立つだけでなく、薬学教育においても実践的な知識・スキルが身につけられる問題集です。
ねころんで読める抗菌薬 やさしい抗菌薬入門書
経験豊かな感染症医が伝授する抗菌薬処方のエッセンスが凝縮されています。基本的な17の心得をマスターし、敵(病原体)の性格を理解し、おもな抗菌薬の特徴をつかむことができます。
ややこしいけど知っておかなければならない、明日から使える抗菌薬のキホン知識が100分でスラスラ読めて自然と体得できる一冊で、最初に勉強するときに良いと思います。
3冊構成になっていますので是非挑戦してみてください。
キャラ勉!抗菌薬データ
52の抗菌薬がすべてキャラクター化されています。系統ごとに住む世界・職業がキャラ設定されているため、抗菌薬の特徴や使い方を直感的に記憶することができます。
抗菌薬に苦手意識をもつ薬剤師さんにおすすめな1冊です。
まとめリンク
薬学生・薬剤師レジデントのための感染症学・抗菌薬治療テキスト 第2版
薬剤師の臨床センスを磨くトレーニングブック 薬トレ 感染・がん
まとめ
抗菌薬治療について勉強する上で、参考となる本を厳選して紹介しました。
忙しい日常業務に追われながらも、知識をつけ、患者さんに還元していくためには効率的に知識をアップデートすることがとても大切です。
抗菌薬を使用しない患者さんはいないと思いますので、抗菌薬の知識は様々な場面で有効活用できます。
今回紹介した本などを有効活用して、さらに知識をアップデートしていきたいですね。
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