薬物動態を薬学部ほど深くしっかりと勉強する学部はありません。
薬剤師としての専門性を発揮できる分野として薬物動態はとても大切です。
薬の効果や副作用を考える上で、薬物動態を考えるとどのように考察できるかという視点は、他の医療スタッフにはなく、薬剤師独自の役割であると思います。
しかしながら、大学での薬物動態の授業というと、数学のように数式がたくさん出てきて、十分に理解できなかったと言う薬剤師も多いと思います。
実際の医療現場で使用できる薬物動態の知識は、数式を用いて計算することではなく、基本的な考え方です。薬物動態の基本的な考え方を学ぶことができる本で勉強しておくことが大切です。
今回は、薬剤師として必要な薬物動態を学ぶ上で参考になる本を厳選して紹介していきたいと思います。
教科書として使える本
第4版 臨床薬物動態学: 薬物治療の適正化のために
「第3版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために」(2015年刊行)の改訂版です。
薬物血中濃度を解析するという従来の薬物動態、TDMのイメージを一新し、薬物血中濃度を用いずに薬物動態の視点、情報を薬物治療のモニターに付加し、モニターの内容を豊富化していくための概念や具体的な方法を示すことに力点が置かれています。
薬物動態学の臨床適用という目的に徹した一冊で、数式だけではなく、薬物動態の基本的な考え方を学ぶことができます。
薬物動態の情報をいかに治療に適用、利用していくかを述べることにより、薬物動態の視点が薬物治療を適正に遂行していくうえでいかに大切であるかが書かれています。
バイブルとして持っておきたい1冊です。
臨床薬物動態学(改訂第5版): 臨床薬理学・薬物療法の基礎として
薬学部・医学部向けの臨床薬物動態学分野のパイオニア的教科書です。
個人最適化医療をめざす臨床薬物動態学の基礎から最先端の発展的内容まで幅広く網羅されています。ペプチド、抗体医薬品などの新しい情報や知見が積極的に盛り込まれている他、薬物動態理論に関する章を再編するなど章立ての一部変更が行われ、基礎から最新の情報までよりスムーズに学べる構成となっています。
バイブルとして持っておきたい1冊です。
ウィンターの臨床薬物動態学の基礎―投与設計の考え方と臨床に役立つ実践法
米国カリフォルニア大学薬学部臨床教授による臨床薬物動態学の実践的教科書”Basic Clinical Pharmacokinetics(第5版)”の完全翻訳版です。薬物動態といえば、ウィンターと名前が出てくるほど有名な1冊です。
薬物動態モデルを極力単純化し、投与設計を系統的にわかりやすく解説するとともに、豊富なケーススタディを通して自然にその応用法が身につくように編集されています。
各薬剤別の薬物動態の考え方が充実しており、バンコマイシンやタクロリムス、シクロスポリンはもちろんとして、エトスクシミドやリドカインなど他の本では解説されていないような稀な薬剤についても解説されており、困った時に参考になる1冊です。
基本が身につく・考え方がわかる エキスパートが教える薬物動態
安全・効果的な薬物治療を考えるときに強い味方になるのが薬物動態の知識です。
この本は「臨床で使える薬物動態」の決定版です。
Q&A形式で、日常の業務の中で迷うことの多い内容がまとめられています。
各薬剤知っておきたいADMEの知識、特殊病態下の薬物動態、薬効別の薬物動態のポイントなど、手元に一冊置いておきたい内容です。
概念を簡単につかめる本
薬がみえる vol.4
人体の生理、疾患の病態生理、薬理作用をつなげて構成したビジュアルテキストです。
薬力学、相互作用、製剤学、薬剤の使用と実務とともに薬物動態学が収録されています。
姉妹シリーズの病気が見えると同様に、わかりやすさと使いやすさに徹底的にこだわっており、薬物動態学の計算も、式の成り立ちから使い方までしっかりガイドされています。
イラストが多く、薬学生や新人薬剤師に向いている一冊です。
初学の一冊として良い本だと思います。
添付文書がちゃんと読める薬物動態学
「わかったつもり」を「わかった」にする「添付文書がちゃんと読める」シリーズの第2弾です。
日常業務でよく接する添付文書をもとに、薬物動態を考えるという1冊です。
薬物動態の知識を業務の中でどのように活かせるのか、添付文書を薬物動態的な面から見るとどのように考えることができるのかについて書かれています。
薬物の体内動態を考えるうえで欠かせない「分布容積」「消失半減期」「クリアランス」の3つが理解できます。
添付文書をどう薬物動態に活かせば良いのかを学びたい薬学生や新人薬剤師に相応しい1冊です。
どんぐり未来塾の薬物動態マスター術 第2版
薬物動態の知識から患者さんの治療を考えられるようになることを目的に書かれている1冊です。
わかりやすく系統立てて学べるように再編成され、最近の頻用薬に関する症例にも触れられています。
各Lessonで学んだ内容をもとに考える「練習問題」も充実しており、学んだ知識を模擬症例で復習することができるので、薬物動態の基礎がしっかり身につきます。
薬物動態を薬局で活用するための知識とノウハウが詰まった1冊です。
マンガでわかる薬物動態学
マンガでとてもわかりやすく、イチから薬物動態学が解説されています。数式を可能な限り減らして、かわりに概念的な理解を助けるようなたとえ話を織り交ぜることで、入門書として平易に解説されています。
大学時代に薬物動態といえば数式が多くアレルギーがある新人薬剤師や薬学部低学年の薬学生におすすめの1冊です。
薬局の現場ですぐに役立つ 実践で学ぶ! 薬物動態学 (薬剤師のためのスキルアップレシピ)
数式などを使わずに極力、簡潔かつスピーディーに学びなおすための参考書としてまとめられています。
ADMEの基礎から、薬物動態パラメータ、コンパートメントモデルなど、現場で働く薬剤師の目線で読みやすい内容となっています。
大学時代に薬物動態といえば数式が多くアレルギーがある新人薬剤師や薬学部低学年の薬学生におすすめの1冊です。
各分野に特化した薬物動態の本
薬物動態・薬物相互作用・薬物アレルギーからの最適化 スペシャル・ポピュレーションの抗菌薬投与設計
抗菌薬の使用方法や薬物動態に特化した1冊です。
特殊病態患者(いわゆるスペシャル・ポピュレーション)では、生理機能や代謝機能の変化が抗菌薬の薬物動態に変化をもたらすことが知られています。
感染症治療では、抗菌薬の薬物動態変化を考慮した投与量設計、薬物相互作用の予測・回避、副作用モニタリングなど、患者一人ひとりへの抗菌薬治療の最適化が重要であり、ここに薬剤師の果たす役割は大きいものがあります。
一方、こうしたスペシャル・ポピュレーションでは、注意すべき点や関与すべき点がそれぞれ異なることから、躊躇する薬剤師も多いことが現状です。
この本は日常臨床で遭遇するさまざまなスペシャル・ポピュレーションに対して抗菌薬を適切に使用する際の考え方について、各領域のエキスパートにより解説されています。
抗菌薬適正使用チームに関わる薬剤師だけでなく、病棟担当者などすべての薬剤師にとって有益な1冊です。
改訂第2版 ハイリスクがん患者の化学療法ナビゲーター
がん患者が既往症や合併症を持っている、腎機能や肝機能低下がある場合は少なくないですが、どのように抗がん剤を投与すればよいか明確化されていないことが多いです。
現場ではこのようなハイリスクがん患者に対し、投与量などを調節しながら治療を行っています。
この本は、ハイリスクがん患者が多く集まる代表的な市中病院である虎の門病院の医師を中心に、豊富な治療経験をもつ執筆陣により、基礎疾患をもつがん患者のがんと基礎疾患の両方に対する治療法が解説されています。
腎機能や肝機能低下時の抗がん剤の減量の目安が記載されており、投与量調節を行う際に、参考になる1冊です。
実務に使用できる本
腎機能別薬剤投与量POCKETBOOK 第3版
腎機能低下患者及び透析患者への薬物治療では、用法・用量の調節を考慮しなければならない(または禁忌)薬剤が多数存在し、適切な投与設計が医療者に求められます。
この本では、 現在市販されている薬剤の腎機能別推奨投与量が、GFR又はCCr5mL/min刻みの一覧表で掲載されており、「患者に投与したい薬剤・処方された薬剤は果たして減量が必要なのか?」「腎機能に応じた至適用量はどのくらいか?」が一目でわかるようになっています。
掲載医薬品情報は2,000を超え、情報量はとても多くなっています。
さらに、減量法についても最新の知見を踏まえられています。持ち運び便利な小型サイズで、ポケットに入れておけば、臨床現場で強力な助っ人になること間違いなしの1冊です。
透析患者への投薬ガイドブック 改訂3版 慢性腎臓病(CKD)の薬物治療
1999年の初版発行以来、CKD・透析患者の診療に関わる多くの医療従事者の「バイブル」として圧倒的な支持を得ている1冊です。
投与設計のための基礎知識を最新の情報を基に解説した「総論」、エビデンスとなる薬物動態のデータや関連論文がふんだんに盛り込まれた「投薬ガイドライン」が、臨床業務で役に立ちます。
透析患者さんに突然触れなくてはいけなくなった、そのような時に参考になる1冊です。
日本語版 サンフォード感染症治療ガイド2020(第50版)
1969年の刊行以来,全世界の臨床家に活用されている「感染症診療のバイブル」です。
毎年最新のエビデンスに基づいて内容が改訂され、全ページ表形式で,疾患ごとに治療推奨が一目でわかる現場で使いやすい1冊です。
細菌から真菌,寄生虫,ウイルスまで,遭遇しうるすべての感染症を網羅され、薬剤師をはじめ,医学生,研修医,一般臨床医など多くの医療関係者に愛用されている1冊です。
後半に腎機能低下時の抗菌薬投与量の記載があり、腎機能や肝機能による抗菌薬投与量を考えたい際に、とても参考になる1冊です。
まとめリンク
臨床薬物動態学(改訂第5版): 臨床薬理学・薬物療法の基礎として
ウィンターの臨床薬物動態学の基礎―投与設計の考え方と臨床に役立つ実践法
基本が身につく・考え方がわかる エキスパートが教える薬物動態
薬物動態・薬物相互作用・薬物アレルギーからの最適化 スペシャル・ポピュレーションの抗菌薬投与設計
透析患者への投薬ガイドブック 改訂3版 慢性腎臓病(CKD)の薬物治療
まとめ
薬物動態は重要な基礎的知識であり、専門性でもあります。
今基本的な概念をマンガで簡単に学べる1冊から、各薬剤の細かい点まで学べる1冊まで、多くの本を紹介いたしました。
ご自身にあった1冊を見つけて、しっかりと身につけ、臨床で活躍し、患者さんへ貢献していきたいですね。
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